結審に当たって

革新的センサ技術に対する愛知製鋼の無理解が生んだ冤罪
    ~検察は「犯罪事実」を立証出来ず~ ~


はじめに


先月23日、本蔵義信さんと菊池永喜さんの不正競争防止法違反容疑で争われた裁判が結審しました。「本蔵さんが開発中の世界最高水準の次世代磁気センサ(GSRセンサ)は、愛知製鋼の磁気センサ(MIセンサ)の技術を盗用したものであり、2013年4月9日、会議室ホワイトボードで愛知製鋼の営業秘密を開示した」との事件です。一体、当時の二人に何が起こっていたのか。何に取り組んでいたのか。初公判以来4年半、全32回の公判の中で本蔵さん菊池さんと弁護団は、膨大な業務記録を遡り、証拠資料と共に二人の当時の行動やGSRセンサ開発開始までの経緯を詳細に明示してきました。その結果、ホワイトボードの写真に、愛知製鋼の秘密技術の記載は一切なく、GSRセンサ開発に使用する新しい装置のみ描かれていたことが解明されました。そして、秘密漏洩の証拠とされたホワイトボードの写真こそが、二人の無実を示す最大の証拠でした。


4年半にも及ぶ事件となってしまった原因は、一体何だったのでしょうか。 これまでご支援いただきました皆様のお力が本蔵さん菊池さん及び弁護団にとって、どれだけ大きな支えになったか分かりません。私達からも心より感謝申し上げます。判決は3月18日の予定です。無罪となり科学技術の新しい地平が開かれるものと信じています。ここに改めて、本裁判を通じて明らかになった真相をご報告いたします。


(主な内容)

  1. GSRセンサはMIセンサとは異なる原理に基づくセンサで あることが明らかとなりました。 つまり、本蔵さんにはMIセンサ固有のノウハウは無用でした。
  2. 愛知製鋼の証言者ごとに、「営業秘密」が異なっており、検察が主張する「秘密開示情報」なるものが、公知情報であったことも明らかになりました。 検察は、「盗用された」という技術を証拠・証言によって特定出来ず、検察の工程は作り話であったことが明らかになった後も一切反論することなく「犯罪事実」の立証責任を放棄しました。
    • 会議室にいた全員が本蔵氏は愛知製鋼の営業秘密を開示していないと証言しました。
    • 愛知製鋼の西畑証人は、検察が主張する「漏洩した工程」には、愛知製鋼の真のノウハウが欠けており、機能しないと証言しました。
  3. 2013年4月9日の会議は、私的なものではなく、愛知製鋼の正式な業務の一環でした。菊池さんは愛知製鋼の業務をしていただけでした。
    • 菊池さんの業務はセンサの小型化による原価低減で、4月9日の会議もその一環でした。
    • 検察のストーリーに沿った菊池さんの供述調書は、外部から遮断された密室で、情報操作によって強要されたものであったことが明らかになりました。
  4. 愛知製鋼はGSRセンサの原理と技術を理解できないまま告訴しました。
    青山証人の証言や愛知製鋼の主張は、GSRセンサに対する無理解を露呈したに過ぎません。そして検察は愛知製鋼の信じる犯罪ストーリーを鵜吞みにして、「営業秘密の漏洩」を主張したのです。
  5. 本事件は日本の科学技術の発展にとって深刻な問題を提起しています。

私達は、本蔵さんの完全無罪と世界最高の磁気センサが世に出ることを熱望しています。


*[1]起訴内容(参照1)、[2]検察による愛知製鋼の「営業秘密である整列工程」(参照2) [3]裁判経過については文末をご参照ください

  1. GSRセンサはMIセンサとは異なる原理に基づくセンサで あることが明らかとなりました

    事件の背景には、愛知製鋼が、「本蔵さんが開発に成功したGSRセンサは、愛知製鋼の有するMIセンサ技術の模倣に過ぎない」と主張したことがありました。そして「マグネ社(*)のワイヤ整列装置もまた愛知製鋼のそれを盗用したに違いない」断定し、愛知製鋼の整列装置の営業秘密漏洩を告訴すると同時に「ワイヤ整列装置の特許」「GSRセンサの原理特許」の無効を訴えました。ところが、前者特許については愛知製鋼自らが取り下げ、後者特許については特許庁によって二度にわたりその訴えが却けられ、『本発明(GSRセンサ)は新現象を発見した基本特許と評価し・・』との判定が下ったのです。今やそれは、 国際学会誌にも掲載され、古典物理学に基づく磁性変化たるMI原理とは全く異なる『新原理』として受け入れられ始めています。
    (*)マグネ社は,磁気技術の研究開発とその成果の普及を目指して,本蔵さんが設立した会社です。

    (解説) GSRセンサとMIセンサの原理と技術の比較
    GSR原理(2015年発見)はMI原理(1992年発見)と比較すると、適用周波数をMHzから GHzへと増加させた結果、基礎的な物理現象が古典的な磁壁移動から量子論的なスピン回転へと変化しています。性能面では100倍も向上しており、世界が注目している画期的なセンサです。
    GSR原理は、磁性を感知するワイヤの表面磁気特性に依存するもので、センサ素子の製作過程で、張力を弾性限界(40kg/mm2)より大きく付与します。他方MI原理は、ワイヤ全体の磁性特性に依存し、負荷する張力を極力小さくし、弾性限界以下が必須です。裁判で争われているワイヤ整列装置は、ワイヤを基板前面に貼り付ける装置で、GSR装置は、強く引っ張っているのでワイヤをまっすぐに貼るのは容易ですが、断線対策が難しいものです。MI装置は、張力が小さいので断線対策は容易ですが、まっすぐに精度よく張る点で難しさがあります。両装置は、GSR原理とMI原理の違いに対応して、装置の機能が大きく違います。それにも関わらず、愛知製鋼は、刑事告訴と同時に、両装置は同じだと主張し、マグネ社の特許権の仮処分を行いました。しかし、現在自らこの主張を撤回しており、いかに理由が無い主張をしているかを自ら認めています。


  2. 検察は、「盗用された」という技術を証拠・証言によって特定出来ず、「犯罪事実」の客観的立証という責務を放棄しました
    1. 会議室にいた全員が本蔵氏は愛知製鋼の営業秘密を開示していないと証言

      会議室にいたのは本蔵さん、菊池さん、装置メーカのF氏の3人だけです。全員が本蔵さんは愛知製鋼の営業秘密 を開示していないと証言し、装置メーカのF氏は「仕様を聞いただけ」と証言しました。当日の打ち合わせを記録した証拠資料、ホワイトボード写真、F氏と菊地さんの当日の記録メモから、事件当日の内容が再現されました。装置の設計はF氏が説明しており、愛知製鋼の秘密は一切議論されていませんでした。このことに対して、検察は一切反論を行わず、犯罪事実の客観的立証という責務を放棄しました。
    2. 愛知製鋼の西畑証人は、検察が主張する「漏洩した工程」には、愛知製鋼の真のノウハウが欠けており、機能しない、と証言

      GSRセンサの場合、ワイヤに強い張力をかけるので直線性は簡単に実現され、このワイヤを基準に上昇した基板の溝にワイヤを挿入し整列させることは簡単です。一方愛知製鋼のMIセンサの場合、整列工程の開発に関わった西畑氏の証言によると、「弾性限界内の弱い張力で、極細で弱いワイヤを、直線状に基板上に配置する」ことを目的とする装置なので、ワイヤを直接狭圧しない、ワイヤを直線状にする工夫、ワイヤ切断前に張力を解除する等の具体的な「ノウハウ」がなければこの装置は機能しないと証言しました。これらの具体的な「ノウハウ」が欠ける検察工程では愛知製鋼の装置は作動しないと証言し、検察工程がアイチの秘密工程でないことが明らかになりました。
    3. 検察が主張する「秘密開示情報」なるものは、公知情報であった

      検察の主張する営業秘密たる「整列工程」は、ごく一般的なもので、且つ、工程として成立すべき連続性を欠いており、到底「秘密」の名に値しません。装置メーカの担当者は、検察の主張する程度の抽象的な工程情報は汎用技術であり、同種の装置は他社への納入実績もあり、また同社のカタログにもその程度のことは記載されていると証言し、検察の主張する「整列工程」が公知情報であることを明らかにしました。 愛知製鋼側の青山証人は、検察工程から、マグネ社の装置の工程と愛知製鋼の装置の工程に共通する一般的工程だけを抜き出して、この「基本工程」こそが愛知製鋼の秘密工程だ。と新たな主張を展開し、西畑氏の証言を否定しつつ挽回を図りましたが、弁護団は証拠を示しながら、悪質な証言であると論断しました。 愛知製鋼は1999年以前に整列装置「0号機」を導入しており、それは公開していました。また「1号機」は、JST(科学技術振興団)からの委託開発であり、そのノウハウはJSTに帰属するものでした。次に「2号機」(2004年)「3号機」(2006年)を導入しましたが、いずれも「ワイヤに、弾性限界内で余分な応力を掛けない」もので、マグネ社の「弾性限界以上の張力を掛ける」装置、工程とは異なるものでした。
    4. 証言者によって、「営業秘密」は異なっていた

      「ワイヤを整列させる工程」は、装置そのものや図面で容易に提示できたはずのものですが、検察はそれらの物証の提示を拒否し、証言で充分にその主張が立証できると胸を張りました。しかし、その結果は惨憺たるものでした。愛知製鋼の 証人ごとに「営業秘密」の内容が異なり、愛知製鋼の営業秘密が特定されることはありませんでした。青山証人に至っては、「漏洩した営業秘密を記した文章は存在しない、一人一人の頭にある」と証言しました。それでは、検察の主張する「営業秘密」は誰の頭の中にあったものだったのでしょうか。はっきりしていることは、その存在の客観的立証自体が困難だということです。いったい、検察官はどうやってその「営業秘密」とやらを導き出したのでしょうか。そもそも愛知製鋼の営業秘密管理はどうなっているのでしょうか。
    5. 検察の主張する工程は作り話であった

      検察工程には、「“ワイヤを基準”にワイヤを整列させる」と記載されており、それが愛知の秘密だと主張していますが、この「ワイヤ基準」という技術用語は2014年2月ごろに本蔵さんらが発案して、その後装置メーカがマグネ社に納入した2号機にて、2020年に完成した技術で、2013年4月9日事件当時には存在していない技術です。事件当時は、「“ガイド基準”にワイヤを整列させる」装置が図示されており、検察工程はホワイトボードの写真に対応していませんでした。検察の工程は、愛知製鋼の装置を稼働させることができない、当時存在していなかった工程を含む架空の工程、ホワイトボードの写真にも対応していないことが明らかになったのです。

  3. 2013年4月9日の会議は、私的なものではなく、愛知製鋼の正式な業務の一環であり、菊池さんは愛知製鋼の業務をしていただけでした
    1. 菊池さんの業務はセンサの小型化による原価低減

      菊池さんは2012年6月、第三生産技術部長に就任しました。当時の主な業務は素子の小型化による原価低減と、アップル向けワイヤ素子の開発でした。従来のワイヤ挿入装置ではこの課題に対応が出来ず、装置メーカと新規装置の開発を進めていました。社内の会議では「原価低減に取り組む」ことが確認されており、会社の業務として社長以下も承認済みでした。その後装置メーカと契約し、その要望に従って新装置設置寸法確認のために治具を送付しましたが、当然それもまた愛知製鋼での原価低減業務の一環でした。すなわち、「営業秘密」を漏洩したとされる2013年4月9日の会議もまた、原価低減を図るための第三生産技術部の正式な会議だったのです。決してそれは「本蔵氏の主導の下に開かれた違法な漏洩のための会議」ではありませんでした。これらの事実は、ようやく公判の終結が見通せる時期になって、菊池さんの記憶と当時の資料が整理されて初めて明らかになりました。このことは捜査にあたった警察・検察も知っていたはずです。知らなかったとすれば全くもって捜査の怠慢というほかはありません。口をつぐんではいますが、愛知製鋼もまたそれを知っていたことは言うまでもありません。
    2. 2013年4月9日の会議では「営業秘密」は開示されていなかった

        会議では、菊地さんから、原価低減のための装置の仕様が示されました。本蔵さんは、その装置で、以前から温めていた、アイデアについて話しました。それは、大きな張力をワイヤに掛けることで、後にGSRセンサ開発の出発点になるもので、会議はその可能性を検討するものでした。この仕様やアイデアは、装置メーカの自社技術で実現できるので、愛知製鋼のノウハウを必要とするものではありませんでした。また、本蔵さんのアイデアも、従来の愛知製鋼にはない新しいものでし た。
    3. 外部から遮断された密室で、情報操作によって強要された供述調書

        取り調べの時点で、事件とされる時から4年も経っていました。検察はPCやメモ・ノートなど全ての記憶媒体を差し押さえており菊池さんの手元には自主的に記憶を回復する手立ては残されていませんでした。検察に都合の良い証拠のみを提示され検察ストーリーに沿った調書が創られました。否認を続ければ身柄拘束が長引くことも匂わされました。菊池さんには裁判で潔白を証明する手立てしか残されていませんでした。
  4. 愛知製鋼はGSRセンサの原理と技術を理解できないまま告訴しました
    1. 鑑定人たる青山氏の驚くべき証言 

      愛知製鋼の告訴の発端となった「本蔵特許と愛知製鋼のワイヤ整列装置は同じだ」とする(特許鑑定書)(2015年12月)を作成した青山氏は、西畑氏(同じ愛知製鋼)の「細かいノウハウが愛知製鋼の営業秘密である」との証言とは真逆に「些細な違いではなく基本工程こそが営業秘密だ」と証言しました。そもそも青山氏のこのような主張の裏には「愛知製鋼のMIセンサ製造技術は世界一」という自負があったのではないでしょうか。そして、マグネ社のワイヤ整列装置特許の存在を知った時、また、新しい整列装置がその仕様の提示から半年余りで納入されたことを知った時、その自負心は愛知製鋼から盗んだものに違いない、という予断を生んでしまったのです。すべてはここから始まりました。整列前のワイヤの特性を損なわずに最大限に活かすための整列装置の工夫の数々は、愛知製鋼の文字通りにノウハウでした。しかし、皮肉にも、それは青山氏によって「些細」なこととされてしまいました。それは本蔵特許にも新しいワイヤ整列装置のどこにも存在しなかったからです。「愛知製鋼の整列装置と本蔵特許・マグネ社の整列装置に共通するものこそ、愛知製鋼の「営業秘密」である」、すなわち両者に共通するなんとも陳腐な「基本工程」なるものが営業秘密だと主張されることとなりました。 例えば、青山氏は「負荷張力が弾性限界より大きいか小さいかで技術が異なる」との質問に、「些細な違いで、張力を負荷して引き出すという意味では同じだ。」と証言しました。しかしマグネ社の装置は、GSR特性の向上を図る目的で、ワイヤ表面の巻き癖応力を一様にするために、弾性限界以上の張力が必要であり、そのために装置の構造(張力制御、チャック構造他)も大幅に異なっています。この違いは、MI原理(古典的な磁壁移動という電磁現象)とGSR原理(量子論的な、表層のスピンの高速回転現象)の違いに直結するものです。青山氏の主張は、その違いが理解できなかったか、あるいは意図的に無視したのでしょう。 かくして、愛知製鋼の技術者の創意をも切り捨て、本蔵特許の独創を見ないこのような主張はたちどころに行き詰まりました。それはあまりにも平凡なものとならざるを得なかったのです。大学程度の技術教育を受けた人間であれば、誰でも思いつくような内容になりました。本人は明言しませんでしたが、それが公知の情報であることを認めたのでしょう。弁護団からこの点を追及された青山氏は「公知情報でも組み合わせ方によっては秘密たりうる」と開き直りました。青山氏には今少し聞きたかった。その主張する「基本工程」のどこに「秘密」の名に値する組み合わせの「妙」があるのか。
    2. 「技術常識に反する主張・・・」 と特許庁が審決した愛知製鋼の主張

      愛知製鋼は、2018年10月に本蔵さんのGSRセンサ特許を「MIセンサと同じ」ものだとして、特許無効審判を請求し、特許庁から、2019年10月に「GSRセンサとMIセンサは異なるもの」との審決が出されると、次いで、「用語使用などに問題がある」として、2021年1月、特許庁に本蔵特許は無効であると審判請求をしました。最終的に2021年12月に下った審判では、特許庁審判官は本蔵論文の国際的学術評価を評価した上でGSR原理の発明を、『本発明は新現象を発見した基本特許と評価し・・』との判定を下しました。 興味深いのは、その審決において、≪請求人(愛知製鋼)の主張は「理科系の素養を有する当業者にはおよそあり得ない常識外れの主張というほかなく、全く採用することができない」「技術常識に反した曲解に基くもの」 「とるに足らぬ曖昧さを曲解、拡大しているものであって、到底これを支持することはできない」≫と断言したことです。ちなみに、この審判で愛知製鋼を代表してその技術説明を行ったのは青山氏でした。
    3. 警察・検察は、愛知製鋼の予断に基づく「事件」の捏造を無批判に受け入れた

      この事件はサーバーからのデータの持ち出し、治具の社外への送付等を挙げてなされた愛知製鋼の告訴から始まりました(第一次告訴)。のちに県警の捜査はこの告訴に多くの誤認があることを認め、本蔵さんは「不起訴」、菊池さんは「起訴猶予」となりました。(今となっては、この「起訴猶予」も撤回され「不起訴」とされるべきものです。)本来なら、ここで事件は終わっていたはずでした。しかし県警は押収した資料の中から見つけ出したある会議(2013年4月9日)のメモや写真を愛知製鋼に持ち込み、それを根拠としたさらなる告訴を促したのです(第二次告訴)。本裁判はこのようにして始まりました。自らの捜査で愛知製鋼の事実認識に多くの誤認が含まれていることを知りながら、愛知製鋼の描く事件の予断に満ちた「構図」を無批判に受け入れていたのです。  愛知県警も、名古屋地検も、さらに言えば、愛知製鋼もまた、これで「営業秘密の漏洩」は明らかとなった、とタカをくくったのです。やがて、法廷で、メモや写真に記録された技術内容をめぐって、検察官の主張する「営業秘密」それ自体が争点になるとは思いもよりませんでした。愛知製鋼によれば、本蔵特許もマグネ社の整列装置も愛知製鋼の技術の模倣でしかないのです。従って、このメモや写真を残した会議はこの模倣の現場であり、従って「営業秘密」の漏洩は自明のことであると信じて疑わなかったのです。  検察官の主張は、メモや写真に残された技術内容は議論の余地のない愛知製鋼の「営業秘密」そのものというところから出発していました。愛知製鋼がそのように主張したからです。ところが、その会議は、それまでの愛知製鋼の技術の壁を乗り越える新しい革新的技術の出発点となるアイデアを検討した会議であり、メモや写真はまさにその記録だったのです。従って、そのメモや写真には、それまでの愛知製鋼のノウハウは含まれず、装置メーカの自社技術と本蔵さんらの新しいアイデアが記録されていたのです。   公判が始まると状況は一変しました。弁護団が検察官を追及するという思いもかけない展開が始まったのです。「営業秘密とされる漏洩された工程とはどの整列装置の工程なのか?」との弁護団の質問に検察官は慌てました。愛知製鋼には工程の異なる三世代の整列装置3台があることすら知らず、その冒頭陳述がなされていたからです。「その秘密工程なるものを根拠づける物証・書証はあるのか?」という質問には「ない」と答えるしかありませんでした。検察官は、マグネ社の保有する整列装置特許は愛知製鋼の営業秘密・ノウハウを基礎にしたものだと主張していました。しかし、愛知製鋼は検察官も知らないところで、マグネ社のそれとは異なる工程を持つ整列装置の特許を申請していました。その特許によれば、愛知製鋼の実際のノウハウは検察官の主張する「営業秘密」とは似ても似つかぬものでした。公判を通じての愛知製鋼の技術者の証言も、大きな張力をかけてワイヤを引っ張り固定するという新しいアイデアの核心部分に質問が及ぶと「私には技術はよくわからないが、・・・・・、引張って固定しているので愛知製鋼の秘密です」というなんとも辻褄の合わない証言に終始しました。この様に愛知製鋼は「よくわからない」ままに、予断をもって「営業秘密の漏洩」を訴え、愛知県警と名古屋地検はそれを鵜呑みにしてしまったのです。 愛知県警と名古屋地検の失敗の原因は明らかです。彼らは大企業・愛知製鋼の主張には寄り添い、力弱いエンジニアの声には一顧だにしませんでした。彼らは、忖度することなく、愛知製鋼の主張する「営業秘密漏洩」のおそまつな内容もまた、その捜査の対象とするべきでした。このことを怠ったがために、自らの法廷での主張もおそまつなものとならざるをえなかったのです。
  5. 日本の科学技術の発展にとって深刻な問題を提起しています

    本蔵さんは、最終陳述で「本事件は作り話であり、事件の真相は愛知製鋼によるGSR技術の乗っ取り事件です。今後の、大企業によるベンチャー企業の技術乗っ取りの事件の始まりを意味しており、これを許せば、日本の科学技術力が一層低下し、日本経済の危機につながると思います」と主張しました。 この事件は日本の科学技術の発展にとって深刻な問題を提起しています。 初公判から4年半を経過していますが、この刑事裁判と並行して愛知製鋼による3件の特許裁判が争われ、いずれも本蔵さんが勝利しています。本刑事裁判が扱っている内容は、科学的技術的に世界最先端の極めて高度なものであり、特許庁の審決により、本蔵さんが開発した技術は、愛知製鋼のMI技術とは異なり、GSR技術は特許として有効であるとして、すでに決着がついているのです。 それでも尚、検察は、本蔵さんが愛知製鋼の秘密の工程(=検察工程)を盗み出して、それを利用し、GSRセンサを開発したという主張に固執しています。 しかし裁判が結審した今、検察工程は架空工程であり、秘密漏洩事件は作り話であったことが明らかになりました。 私達は、本蔵さんが、刑事被告人という“くびき”から完全に解き放たれ、世界最高の磁気センサを世に出すこと、そして、日本が世界に力強く羽ばたく一翼を担うことを、心から熱望しています。

2022年1月22日

本蔵義信さんを応援する会
会 長 松田 正久
副会長 松田 篤
副会長 石坂 雅昭


判決結果 速報(2022年3月18日) 速報 ~完全無罪判決が言い渡されました。~(2022年3月18日)

本蔵さん 菊池さん の最終陳述 (2021年12月23日)

本蔵さん 最終陳述より

私はこれまで、大学時代は大学の民主化運動に参加した誇り、愛知製鋼時代には、数 多くの発明し、トヨタ技術開発賞や山崎貞一賞を受賞した誇り、さらに磁気学会の副 会長として活動した誇りをもって生きてきました。若いときは、私の家が倒産の憂き 目にあい借金生活を経験し、学生時代は大病を患い、愛知製鋼では成果の奪い合いに 遭遇するなど、それなりに苦労を重ねてきました。しかし、15歳で、世の中に役に立 つ人間になろうと志を立てて努力を続けて、それなりに世の中に貢献できたと思って いますが、今回の事件に直面することになりました。
しかし私としては、災いを転じて福となすために、本事件と正面から向き合ってきま した。逮捕後、逆にGSRセンサに注目が集まり、協力者が増えて、裁判終了後には 大きな飛躍が期待される状況になってきました。マグネ社は“20世紀Electronicsの時代、21世紀はMagneticsの時代”をスローガンに努力している会社で、この事件をバネにMagneticsの時代を切り拓くべく挑戦をするつもりです。
最後に、本事件で大勢の方、裁判長はじめ関係各位にご迷惑をおかけしたことを、こ の場を借りて謝りたいと思います。私の不徳の致すところと反省しているところで す。
また今回の事件で大勢の方々から励まされて、5年間の裁判闘争および学会活動、会 社経営が継続できました。この場を借りて感謝を申し上げます。特に、弁護団につい ては、佐久間弁護士が、逮捕の夕方面会に来てくれて、また家族にも会って励まして くれ、以後ボランティアで弁護団を結成して、裁判を今日まで指揮してくれたことに 感謝を申し上げます。大学時代の友人が支援する会を結成し、釈放を嘆願する署名を 1000名集めていただき、以後5年間たゆまず支援活動を続けてくれたことに感謝を申 し上げます。マグネ社の従業員の方々、社会からの冷たい目に耐えて、倒産寸前の会 社を盛り立ててくれたことに感謝を申し上げます。また逮捕後もマグネ社との取引継 続してくれた取引企業の方々、GSRセンサの共同研究を継続していただいた研究者の 方々、激励のエールをくださった愛知製鋼のOB、トヨタググループおよび愛知製鋼社 員の方々に感謝を申し上げます。 シリコンバレー、欧州、韓国、台湾、中国、イン ドネシアなど各国の友人からの励ましに感謝を申し上げます。
そして、何よりも私の逮捕とマグネ社倒産寸前の危機に対して、家族が一致団結して 乗り越えるべく努力してくれたことに感謝を申し上げて、最終陳述書に代えたいと思 います。

以上

菊池さん 最終陳述より

私はこれまで、愛知製鋼の陸上の強化選手として同社に入社し、5年で愛知製鋼の陸 上部を全日本実業団駅伝(ニューイヤー駅伝)に出場するまでに成長させ、その後 も、10年以上にわたり全日本で10位前後の成績をおさめるまでに選手としてチーム強 化をし、選手引退後は会社の業務に専念して各種開発製品の量産化へ貢献してきまし た。そのような中で、今回青山氏の発言で本蔵さんのトカゲのしっぽ切りと言われた ことについては、非常に憤慨しています。逆に、青山氏は何一つ会社で新製品の立ち 上げをしていません。そのような人に上記のようなことを言われる筋合いは全くない と、思っております。
私としては、今後も世の中のためになる新製品の生産技術開発に努めていくつもりで おります。私は無罪です。裁判所には、私の身の潔白を明らかにしてほしいと、その ように願っています。

以上

愛知製鋼敗訴~「主張の信頼度が著しく低い」 特許審決~

本蔵義信さんは、「超高速スピン回転現象(GSR現象)」を発見し、その原理に基づき今までの磁気センサの100倍の性能を実現できるGSRセンサを発明し、特許が登録されました。この本蔵さんの特許について、愛知製鋼は「GSR特許は愛知製鋼のMI特許の模倣」にすぎないと進歩性欠如を無効理由とする特許無効審判の請求をしました(1次無効審判)が敗訴しました。この時愛知製鋼は不服申立てもせず、令和元年11月にこの愛知製鋼敗訴の第1次無効審判は確定し、改めてGSR原理特許が有効であることが確認されました。 ところが愛知製鋼は、GSR原理特許の「記載内容に不備があり特許は成立しない」と明確性要件違反等を理由に、再びGSR特許無効審判の請求をしました(2次無効審判)。この件についても令和3年11月25日、特許庁より審決(特許裁判の判決)が出ました。愛知製鋼は敗訴しただけでなく、敗訴理由たるや「理科系の素養を有する者にはおよそあり得ない、常識外れの主張というほかなく」とか「技術常識や日本語の一般的な意味を無視し」とまで言及され、愛知製鋼の科学的知見と見識の低さが衆目の下に晒されることになりました。以下に分かり易いポイントを紹介します。

1 「絶対零度でしか排除不可能な『熱雑音」の排除の手段がない」と無効を申立てたが、 「熱力学・統計力学を無視した主張」と退けられる

愛知製鋼は特許文『ワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し』の部分について次のように無効を申し立てました。

「のみ」の部分は「磁化変化のみを純粋に取り出す」ことと解される。「磁化変化」に起因する電圧と、熱雑音に起因する電圧とは異なるものである。熱雑音に起因する電圧を含まない「磁化変化」に起因する電圧のみを純粋に取り出す手段・方法が記載されていない。よって無効である。

それに対して審決文は次のとおりです。

【請求人の主張は、熱力学・統計力学を無視した主張であり、理科系の素養を有する当業者にはおよそあり得ない、常識外れの主張というほかなく、全く採用することができない。そもそも「熱雑音」とは、物質内の電子の不規則な熱振動によって生じる雑音であり、これは絶対零度という極限状態に冷却しない限り完全に排除することができないものである。
 当審は、請求人がこのような技術常識に反する主張を堂々としていることを大変遺憾に思うと同時に、当該主張を堂々としたことの事実は、請求人の主張するその他の内容の信頼度が著しく低いことの証左となることを指摘する。
物理学の法則を踏まえつつ、全体の記載を理解しようとすれば、・・・もっぱら「超高速スピン回転現象によるワイヤの軸方向の磁化変化のみをコイル出力として取り出し」の意味であることは、理科系の素養を有する当業者には明らかである。誤った解釈を前提するものであるから、当該理由によっては発明特許を無効とすることはできない。】

2 「『その時』の意味不明」 と無効を申し立てたが、 「技術常識や日本語の一般的な意味を無視し」と退けられる

愛知製鋼は特許文『磁性ワイヤにパルス電流を通電することによって・・・円周方向スピンを超高速に一斉回転させて、その時に生じる磁化変化を・・・』の部分について次のように無効を申し立てました。 「その時」の意味自体が不明確である。「その時に生じる超高速スピン回転現象」なる記載は、スピンの一斉回転の開始から終了までの期間に対応すると解され得るとともに、スピンの一斉回転の開始又は終了時の特定の瞬間に対応するとも解されるので、タイミングの意味自体が不明確である。よって無効である。

それに対して審決文は次のとおりです。

【「その時」とは、・・・一続きの文中の記載であって、この記載を曲解することなく自然に解釈すれば、「その時」とは、「円周方向スピンを超高速に一斉回転させ」るために、「パルス電流を通電している」「その時」という期間を指すとしか解釈しようのない記載である。 請求人の主張は、技術常識や日本語の一般的な意味を無視し、記載が不明瞭であるという結論にただただ導かんとすることのみを目的として、記載中の取るに足らぬ曖昧さを曲解、拡大しているものであって、到底これを支持することはできない。当該理由によって、本件発明の特許を無効とすることはできない。】

3 「『GSR現象』の発現条件が不足している」と無効を申し立てたが、 「 GSR現象発現はパルス電流の周波数で決定」と退けられる 

愛知製鋼は次のように無効を申し立てました

 「パルス電流の周波数以外の条件(電流強度、コイルピッチ・コイル内径等)をどのように変化させれば・・・GSR現象が生じるか」、「どういう場合にGSR現象が起き、どういう場合にGSR現象が起きないか」を、当業者は理解困難である。当業者が認識できる程度に記載されたものとはいえない。よって無効である。 審決文は次のとおりです。

  【コイルピッチ・コイル内径等の特定は信号強度を高めるためであり、GSR現象にとって本質的なパラメータではないことは明らかである。 GSR現象を生じさせるためには、基本的にパルス周波数のみによることは明らかであるから、「パルス周波数以外の条件をどのように変化させれば・・・・、どういう場合にGSR現象が起き、どういう場合にGSR現象が起きないかを、当業者は理解困難である」との請求人の主張は、GSR現象がパルス周波数を本質的な発生条件とすることを無視したものであり、失当であって、理由がない。】

4 「新現象たるGSR現象を用いて磁場を測定する『基本発明』」と認められた

特許庁審判官は審決の中で次のように述べています。

(1)GSR仮説は妥当性があると学術的に評価されていると認めました。

【現時点では、「超高速スピン回転現象(GSR現象)」はMI現象と原理的に異なる新たな物理現象の仮説として、主張することに相当の妥当性があると学術上評価されていると認められ、少なくとも、実験で発見した式については、査読付論文に掲載されたり、国際会議で招待講演を受けたりするほどの、当該分野の研究者にとって大変興味深い、新現象として十分に検討に値するものであると評価されていると認められる。】
(2)GSR現象を基本発明と認めました。

【新規に見出された現象である「超高速スピン回転現象(GSR現象)」を用いて磁場を測定するところに要点がある基本発明である。】 更に、【本件発明のように新現象を発見した基本発明のような場合、その理論的根拠を科学的に証明することが困難な内容が含まれ、当該現象の理解についての学術界における決着には、時として10年以上の長期の期間を要することが珍しくないことは、当審には顕著な経験則である。】として超伝導現象の場合を例示し、【超伝導現象は1911年に発見されたが、その理論的な解明は、1957年のいわゆるBCS理論まで待たなければならなかった。】とも述べています。

裁判の真相がマスコミの話題になっています。

[1]    3月 8日 SlowNews の「調査報道+」の記事で、愛知製鋼の裁判攻撃の真相が「世界が驚く次世代磁気センサーを発明 特許 400 件のベンチャー経営者はなぜ法廷に立たされたのか」との記事の中で明らかにされています。是非ご一読ください。記者は宮﨑 知己氏

https://slownews.com/stories/rCb3f9Kt3Qk/episodes/6jvySppF5x4

【調査報道+】 ベンチャーを立ち上げ、電気自動車の制御や生体磁気などの測定精度を引き上げる次世代センサーを発明し特許を取った経営者。古巣のトヨタ系メーカーから「営業秘密を開示された」と告訴されてしまう。しかし特許をめぐる審決では「超伝導現象の発見」に匹敵と高評価され、特許を維持。学術界も盛り上がるが、刑事裁判で有罪となれば発明はどうなる?そもそも知的財産高等裁判所があるのに刑事告訴という戦術は公正な競争なのか。注目されなかった5年に及ぶ裁判をウオッチした記者が日本に技術革新が起きない象徴的事件の裏側に迫る。

[2]     3 月 16日付朝日新聞朝刊社会面(名古屋本社版)にて、明日 18 日の判決の言い渡しを控えた刑事裁判の争点、検察官、弁護人双方の主張がまとめられた記事が掲載されています。裁判の内容や経過が分かりやすく整理されていますので、こちらも是非ご一読ください。