未来を拓く技術の革新を願う私たちは愛知製鋼「営業秘密漏洩事件」の不毛を憂います
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関連リンク先 マグネデザイン(株) 愛知製鋼との刑事裁判について 愛知製鋼との民事裁判について |
1. 発端
1.1. 第一次の告訴
2016年8月、愛知製鋼は同社元技監・本蔵義信さんを不正競争防止法違反の罪で愛知県警に告訴しました。愛知製鋼は、本藏さんが同社サーバーから秘密技術情報を不正に取得した上で、センサー製造装置の社外への持ち出しとその不正利用を指示し、その盗用技術情報をもとに不正な特許出願をした、と訴え出ました。告訴を受けた愛知県警は、大企業のからむ「重大な経済事件」として大規模な捜査体制を布いて本藏さんに対する内偵捜査に取り掛かり、2017年1月からは家宅捜索および事情聴取を始めました。しかし、その過程で、愛知製鋼の告訴が事実を見誤ったものであり、その主張の確認できないことが徐々に明らかになってきました。すくなくともこの時点では「重大な経済事件」はまぼろしだったのです。従って、後に、この第一次告訴については、本藏さんに不起訴の決定が下されることになりました。
1.2. 第二次の告訴
本来ならば、ここで愛知製鋼は謝罪の上で告訴を取り下げて本藏さんたちと和解し、捜査当局もまたその捜査を終了すべきでした。しかし、どのような事情からか、捜査は継続され、愛知製鋼もまた、自らの告訴内容の誤りを認めないまま、あらためて、まったく異なる案件での「営業秘密」の漏洩を持ち出しました。第二次の告訴です。愛知製鋼は次のように訴えました。本藏さんは、2013年4月9日の同社岐阜工場会議室で、A社という他社の技術者に口頭およびホワイトボードを使って、愛知製鋼の保有するワイヤー整列装置の「営業秘密」を漏洩した、というのです。この二度目の告訴に基づいて、2017年2月23日に逮捕、同3月15日に名古屋地検は本蔵さんを不正競争防止法違反の容疑で起訴いたしました。
1.3. 第一回公判
その後、同年6月中旬に保釈が認められるまで、長期にわたる勾留が続き、ようやく、6月27日に第1回公判が開かれました。この日、検察側の冒頭陳述によって、はじめて本藏さんが漏らしたとされる「営業秘密」の概要が開示されました。と同時に、弁護側による「営業秘密」漏洩容疑の否認および無罪の主張が述べられました。現在、今後の公判における論点整理が協議中ですが、その詳細は公開されておりません。明らかなことは公判の進行がいちじるしく遅れていることです。この間、担当裁判官・担当検察官の交代も続き、現在のところ、当面の公判の予定すら立っていないという異例の展開となっています。
2. 苦境と支援のひろがり
2.1. 社会的信用の失墜と会社倒産の危機
本蔵さんの逮捕・拘束はテレビ・新聞等のマスコミで大々的に報じられ、私達を驚かせましたが、何よりも当人、その家族、一緒に働いてきた同僚たちを苦境に陥れるものとなりました。本藏さん自身の、家族・同僚・友人・社会から強制的に隔離された状況の下で容疑への否認を続けることの困難もさることながら、本藏さんがこれまで努力を傾けてきた新しいセンサー開発の事業そのものが危機に瀕する事態に追い込まれたからです。愛知製鋼は、不正競争防止法違反という刑事告訴をおこないつつ、それを踏まえた将来の損害賠償請求を見込んで、本藏さんの個人資産および新センサー開発の事業母体であるマグネデザイン社の全資産を差し押さえることを裁判所に求め、それが認められたからです。逮捕・勾留による社会的信用の失墜とともに、それが年度末に近かったこともあいまって、たちどころに本藏さんの小さな会社は倒産の危機に瀕しました。同社への各方面からの出資も中断され、あれこれの営業・開発資金の支払いはもとより、社員給与の支払いさえ危ぶまれる状況となったのです。
2.2. 支援のひろがり
この時、このような事態に本蔵さんが打ちのめされてしまっていたら、その後の展開はよほど異なったものとなったでしょう。しかし、実際には、本藏さん自身にも思いもかけぬものとなっていきました。本藏さんが否認を続けるなか、家族が力強く支えたのです。勾留されている本藏さんのもとには友人たちが駆けつけ、ほとんど手弁当と言っていい弁護団が結成されました。倒産という最悪の事態に直面していた会社には新たな出資者が現れ、従業員もまた、困難な状況の中で会社を去ることもなく、むしろ一層の研究開発に注力してゆくことになりました。
2.3. 姿を現す新しい技術の成果
今もなお、困難な状況自体は変わりませんが、他方で、これまでの努力が次々に形となって現れつつあります。そしてこのことが、ひいては裁判そのものの帰趨にも自ずからに影響を及ぼしていくに違いありません。なぜなら、明らかに本質的に新しい技術の結晶が誰の目にも見える形でその姿を現しつつあるからです。いづれにせよ、現在の争いが陳腐なものに見えてくるような日が近づいていることは疑いありません。
3. 第一回公判を傍聴して - 何が問われたのか -
3.1. 検察官による冒頭陳述の語るもの
2017年6月27日の第1回公判での冒頭陳述において、検察官ははじめて彼らの考える愛知製鋼の持つ「営業秘密」の内容を明かしました。それは、MIセンサー素子量産に際しての8ステップに及ぶアモルファス・ワイヤー整列工程である、というものでした。これこそ、本蔵さんが、2013年4月9日愛知製鋼岐阜工場会議室において、口頭およびホワイトボードで図示することによって、大阪にあるA社という会社の技術者に不正に「漏洩」した「営業秘密」であると断じました。私たちは、今のところ、この冒頭陳述によってのみ、検察側の主張を窺うことができますが、それに従えば、およそ次のような公判での争点が浮かび上がります。その第一は、2013年4月9日の愛知製鋼・岐阜工場会議室でのやりとりが検察側の主張するような内容であったのか否か、第二には、検察側の主張する8ステップのワイヤー整列工程が愛知製鋼の「営業秘密」として実際に存在していたのか否か、という点です。
3.2. ホワイトボードは何を語る
第一の点については、マグネデザイン社によるA社への研究用ワイヤー整列装置発注の際の打ち合わせ内容の一端を書き込んだホワイトボード上における略図の存在が指摘されています。もし、その通りだとすれば、ここから、その打ち合わせがどのようなものであったかは自ずからに明らかです。検察官の言うように愛知製鋼の「営業秘密」がそこで開示されたのか、それとも、本質的に新しいセンサーの構想が語られ検討されたのか。いづれにせよ、ホワイトボード自体がその真実を語ることになるでしょう。
3.3. ふたつのワイヤー整列工程
第二の点はより本質的です。 冒頭陳述では、愛知製鋼の「営業秘密」の概要が8ステップのワイヤー整列工程として開示されました。しかし、このような「営業秘密」の出所は、冒頭陳述の中では明示されませんでした。他方、本蔵さんが開発を進めた新しいセンサーのそれは特許情報として広く公開されています。すなわち、先の打ち合わせ内容やホワイトボード上の略図の評価とも関連し、ふたつのワイヤー整列工程の異同とともに、その主張の根拠自体が今後の公判の中で争われていくこととなるでしょう。
4. 隠れている争点 GSRセンサーとMIセンサー
この事件の背景には、本藏さんによって開発が進められているGSRセンサーとその製造技術は愛知製鋼の保有するMIセンサー量産技術の盗用を基礎にしている、という愛知製鋼経営陣の主張があります。しかしこのような主張が的はずれなものであることは、現在のセンサー技術研究の趨勢や国際的な学会での検討状況を見ても明らかです。
そもそも、GSRセンサーは、格段に進展した今日の技術的条件のもとで、旧来のMIセンサーの限界を打ち破るべく構想された新しいセンサーであり、その製造技術です。それは、精度、感度、小型化、低コスト化といういづれの側面においても、MIセンサーからの飛躍的な進化をめざしたものです。従って、当然のことながら、このようなGSRセンサーの設計思想とそれに基づくセンサーの構造、機能は自ずからMIセンサーとは異なるものとなります。GSRセンサーの最大のブレークポイントは、MIセンサーがそれを最大化しようとした磁壁(パルス電流をアモルファス・ワイヤーに流すことによって生じるワイヤー内部の磁化領域)エネルギーの検出を捨て、その周辺現象にすぎなかったワイヤー外周部の電子スピン現象に着目した点です。そしてその高精度な検出のために、アモルファス・ワイヤーに流すパルス電流の飛躍的な高速化、アモルファス・ワイヤー自体の特性の転換、電子スピンの遷移エネルギーを電気信号に変換する回路の新たな開発等、が行われたのです。このようにして登場したGSRセンサーがMIセンサーの焼き直しでも、その亜種でもないことは明らかでしょう。もはや、いうまでもありません。GSRセンサーの製造工程はMIセンサーのそれとは根幹のところから自ずからに異なるのです。